作曲年:2013年
初演:2013年7月1日
委嘱&演奏:日本音楽集団
演奏場所:津田ホール



この作品は、日本に古くから言い伝えられている様々な個性的な幻獣たちを音楽的に表現し、絵巻物のように一つの組曲としてまとめたものである。

当初は、怪異譚という演奏会のタイトルにふさわしく、不気味で怖い幻獣のみを描こうと考えてその題材を模索していたが、そのうちに、実は日本の妖怪や幻獣には、怖いだけではなくて色々なキャラクターがあることを知った。
そこで、それらの中から4つの幻獣を選び、その様々な個性を活かしながら、一つの組曲に構成しようと考えた。

以下に、それぞれの幻獣の特徴やキャラクター、各楽曲の解説を記す。



1.鵺


サルの顔、タヌキの胴体、トラの手足を持ち、尾はヘビであるという、大変奇妙な姿形をした幻獣。
ヒョー、ヒョー、とこれまた大変奇妙な声で鳴くと言われており、楽曲の冒頭の尺八はその声を模している。
組曲の中では、やや怖ろしく不気味なキャラクターの設定となっている。


2.天狗


言わずと知れた妖怪の代表格で、一般的に鼻が長く、手に葉団扇を持ち、背中には翼があって空を飛翔すると言われている。
また天狗は、山の中に住む妖怪と神様の中間的存在「鬼神(きしん)」と考えられており、良きものと悪しきもの両方のキャラクターを持ち、人間たちとの関わりも深かったと伝えられている。
この楽曲では、やや滑稽で人間味のある性格の天狗が表現されている。空を翔んでいる感じや戯けたニュアンスを楽しんでお聴き頂きたい。


3.人魚


組曲全体のバランスとして、三曲目には何かしっとりと美しい幻獣を置きたいと考え、人魚を設定した。
ところが、詳しく調べてみると「儚く美しい人魚」は、アンデルセンの人魚姫などから来ていたイメージであって、日本の人魚はなんとも生々しくむしろ不気味な様相であった。
中には、頭以外が全て鱗で覆われていたり(もはや人面魚?!)、中年の男性の顔をした人魚だったりと、なかなか衝撃的な人魚とも多数出会えたので、ご興味のある方は(あまりお勧めはしないが) 調べてみられても良いかもしれない。
今回のこの作品は、美しく儚い方の人魚のイメージで作曲されている。水底から泡が立ち昇る中で、ヒラリと尾を翻す人魚、直後に波の飛沫が静かに光る、そういった艶やかで幻想的な情景を描いている。ぜひ人面魚などはお忘れになってお聴き頂ければ幸いに思う。


4.鳳凰


古くは中国から、日本を始め東アジア域に渡来した伝説の鳥で、孔雀に似ているとも、鵺のように様々な動物の部位が集まった姿形とも言われている。
五色絢燗に輝く美しい鳥とされ、また不老不死などにも通じる縁起の良さから、美術や建築などの意匠に用いられていることはご存知の方も多いと思う。
その美しさ、華やかさのイメージから、終曲に相応しい幻獣として設定された。
楽曲は、冒頭の力強いトゥッティの後、まず箏群、次に管楽器群という順に、各楽器群がそれぞれ技巧的な奏法による華やかなセクションを連ねていき、最後に再び全楽器によるトゥッティとなって鮮やかに終曲する作りとなっている。
また、全体を通して、美しさや華やかさだけでなく、風または火を司る霊鳥としての「烈しさ」を湛えた楽曲となっている。
邦楽器ならではの、立ち上がりの良い弾けるような音の粒によって現れる、華やかで烈しい鳳凰の姿を、お楽しみ頂ければと思う。